REPORT

第5戦 鈴鹿サーキット 決勝レポート

8月19日(日) くもり/ウェット

● フリー走行  

今日の午前中が高かった降水確率だが、フリー走行開始時点で雨はないものの、未明の雨がコースを濡らしておりウェット宣言が出されている。各マシン、レインタイヤ(深溝)、インターミディタイヤ(浅溝)、また決勝レースに向けた皮むきの為スリックタイヤと入り乱れてのコースインとなった。フルタンクの決勝仕様にインターミディでコースインしたEVA紫電、加藤選手だが、時折西コースで雨がパラつくコンディションではタイム的には参考にならない。各ドライバー2〜3周の計測でマシンのコンディションを確認、むしろピットワークシュミレーションに重点をおいたフリー走行となった。

今回のレース、173周だが300クラスはおそらく160〜161周。満タンで走れるラップ数はEVA紫電の場合36〜37周、「〜」となるのはレース中の実際の燃費から、周回が前後するからである。単純な計算だと(36周?4回)+17周=161周・・・常に給油時に満タンにして4回ピットイン、5スティントとなる。好燃費のJAFGTマシン勢はこの4回ピット、5スティントとなり、パワーのあるFIAGTマシン勢は1回増える5回ピット、6スティントと予想される。しかしFIAGTマシンも、最近は若干タイムを落として燃費を稼ぎ、こうした給油時間を削って上位に食い込む作戦を取るマシンもあり、この長丁場では、最終ピットインを終えるまで順位は分からない。我々としては、短いピットロスを活かし、ドライバー、メカニック、“何事も無く”全てノーミスでレースができれば最終的に高順位に残るという、地味なレース展開を進める事にした。


● 決勝レース 

レースはスタートは12時30分。ゴール時刻の予想は、午後6時半(レースが遅れた場合でも日没の6時37分がチェッカー)この為夜間走行が無くなり、1000㎞レース独特のライトを点灯し闇夜を疾走するマシン群の姿を見られなくなったのはファンの方々には残念だが、ヘッドライトやサイン照明等のこのレースの為だけの特別な装備がなくなりチームの負担が減ったのはありがたい。しかし暗くなったコースに戸惑い、ペースが落ちるマシン・・・と言うよりドライバーもいれば、反対に下がった気温、路温を味方にして、暗くなってもペースの落ちないドライバーもいるなど、レース終盤の追い上げ、番狂わせの要因が減ったとも言える。
 スタート時間が早くなった為、正午前からコース上ではスターティングセレモニーが始まる。スターティングドライバーは開幕戦岡山以来の高橋選手。 先の各スティント周回の端数(結局15周予定)を一番最初のショートスティントとして持ってきた。これにより2スティント目を担当する加藤選手は、300クラスのトップグループと“違う場所”で、バトルすること無く、マイペースでラップする事ができる。その後はフルタンクが空になるロングスティント(36〜37周)でつないで行くのである。


定刻の12時30分フォーメーション開始。1周の後スタート。先の500クラスのスタートと同様波乱も無く各マシン西コースへと消えて行く。スタート直後のストレートで4号車(BMW)に抜かれオープニングラップは10位。  続く2周目に入ったストレートで31号車(プリウス)に抜かれはしたものの、裏ストレート中盤までポジションをキープ。だが裏ストレートエンドで11号車(アウディ)と、130R立ち上がりで52号車(メルセデス)の2台に抜かれ13位。そして3周目には、早くも最後尾から追い上げてきた66号車(アストンマーチン)にデグナー手前でラップされ14位へ。しかし、ラップタイムが09〜10秒台に安定。8秒台で飛ばすトップグループからは、僅かずつ離されるものの順位はキープしたまま16周を終えピットイン。


全チーム中、最初のルーティンピットである。タイヤ4本交換、燃料フルチャージ、ドライバー加藤選手にチェンジ、45秒のピットストップで再スタート。60km/h制限のピットロードを抜け、フル加速に入ると、早くもトップに立った66号車がストレート駆け抜け1コーナーに飛び込んで行く。5秒台という異次元のタイムで周回を重ねる66号車はともかく、8秒台の2位グループの前に送り出すことに成功。トップからは当然1周遅れだが、2位からは約120秒マイナスである。順位は22位となったが、今回の作戦は順調に進んでいる。
 2位グループの7〜8秒台に対し、6秒台でラップを重ねる加藤選手。見えざるライバルにジワリジワリと接近していく。下位グループからも抜け出し、25周目には18位となり、27周目FIAGT勢で最初にピットに入ったのはトップの66号車。4ピット、5スティントでこのレース、推定161周を乗り切るには、単純計算でフルタンクで33周走らなくてはならない。FIAGT勢にはギリギリの周回となる・・・なるだろう。燃費優先のセッティング、ドライビングで・・・当然タイムは落ちる・・・4ピットとするか?飛ばして1ピット分を稼ぐか?チーム戦略の分水嶺となるが、66号車は間違いなく5ピット作戦である。
 その後ほぼ30周前後に各マシン続々とピットイン、ルーティンピットをこなして行く。32周を終え、順位は12位ながら、トップ・・この時点では未だノーピットの0号車(BMW)・・からの遅れは、106秒のマイナス。その0号車34周までノーピットで引っ張ったのだが、なんと35周目に入ってガス欠ストップ!優勝候補の1台が崩れる。 FIAGT勢で4ピットはリスクが高いようだ。そんな中、33号車は35周目、52号車は36周目まで引っ張り4ピットを狙い、JAFGTマシンでは43号車(Garaiya)が、何と42周まで引っ張っており、これは3ピット4スティントという大胆な作戦が可能であり、これらが成功すればかなりのアドバンテージとなる。各チーム各様の作戦があり、1000kmというロングレースの見所である。
 50周を終え順位は5位。再びトップとなった66号車との差はマイナス76秒と減少。給油時間の差が現れたようだ。そろそろ2回目のピットイン、予定は53周目だが1周引っ張り54周。こうした調整は、メーターに表示される燃料消費を10周毎にドライバーからの報告を貰い、それらのデーターから周回数を増減させたり、タイムの落ち込み等からタイヤの消耗度を推測、またこの季節、この時間帯によるドライバーの体力消耗も加味され調整される。



54周を終えピットに入ってくる加藤選手。3スティント目は助っ人サードドライバー濱口選手。1回目ピットインと同様の作業、だが給油時間は長くなり、ドライバー交代は余裕。丁度60秒のピットストップでピットを後にした濱口選手、順位は8位。ところがコースインする直前ヘアピン手前の110Rで52号車クラッシュ!!セーフティーカー(以下:SC)が出ることとなった。
 だがこのSCは我々には全くもってラッキーで、トップ66号車からは既に1周遅れだが2位の61号車(SUBARU BRZ)からは110秒マイナスの同一周回。SCが入った場合、同一周回の場合のその差は一気に殆ど無くなってしまうのである。しかも61号車始め多くはまだ2回目のピットインを済ませていない。ここで大きく順位が入れ替わる事になるだろう。
 SCランは5周に渡って行われ、多くのマシンはこのSCランの最中に2回目のピットインを済ます事となり、60周終了時にSC退去、レース再開!61周を終え順位は4位!!トップ66号車からは7秒マイナス、2位88号車(ランボルギーニ)からマイナス5秒、3位14号車(IS350)からは僅かマイナス2秒だが、後ろ5位の3号車(GT-R)からはプラス8秒のリードである。だが9秒台周回を重ねる濱口選手に対し、後ろの3号車はSC中に2回目のピット作業を終えて、何と05〜06秒台で迫ってくる。前は12〜13秒台とペースの遅い周回遅れ2台。 それらを抜きあぐねている間に64周目1コーナー、2コーナー間で3号車にパスされる。その3号車は、S字で前を行く周回遅れに大柄なボディをグイグイとねじ込むように抜いて行く。それに便乗して行こうと追いすがるが、ダンロップコーナー頂上付近で追いつかれた4号車(BMW)にリズムを乱され片輪コースアウト。幸い若干のタイムロスをしただけで済み、ここからは自分のリズムを取り戻し7〜8秒台の好タイムで再び追撃体制に入るが、なかなか順位を上げるには至らず5位をキープ。
68周目2位の88号車が3回目のピットインにより自動的に4位に・・・。70周目3位の14号車が2度目のピットイン、3位。 その後84周まで7〜8秒台の安定した周回を重ね3位をキープするが、昨年、一昨年とこのPokka を連覇している61号車が5〜7秒台で猛追、85周目にパスされてしまう。濱口選手タイムの乱れはないものの、ドリンクも飲みきってしまい、かなり体力的に消耗しているようだ。時刻も午後3時台、ピークは過ぎたが、まだ暑さが衰える事はない。
91周を終え、濱口選手から高橋選手へ交代。3回目のピットインのルーティン作業は前回と同じ。降車した濱口選手、高橋選手のドライバーサポートを終え、ピットに歩いて引き上げたが、ピットに入った所でフラリと倒れてしまった。熱中症の様でそのまま医務室に運び込まれ治療を受ける。終盤でもタイムが乱れる事なくこなした精神力は大したものだ。

高橋選手の2スティント目も36周予定のロングスティント、果たして体力は大丈夫か?ピットアウト後の順位は4位と変わらず、トップ61号車から115秒マイナス・・・これは殆ど後ろに来ている状態である。2位66号車からはマイナス約100秒、3位3号車マイナ35秒。5位21号車(アウディ)からはプラス2秒と僅かなリード。だが、まだ残りのピット予定は各チームまちまち。今後どう順位が入れ替わるかわからない。
そんな番狂わせの一つがトップ61号車に起こる。93周目に入りガス欠で止まってしまったが、同じ周回に21号車に抜かれたので順位は変わらず4位。続く5位は88号車(ランボルギーニ)は770秒後方と大きく開いているが、高橋選手のタイムが12秒台とペースが遅い。6〜7秒台でラップする88号車が脅威となる。だが98周辺りから高橋選手も8〜9秒台へとペースアップ。加藤選手への最終スティントまで、ポジションはキープできそうだ。

115周目、ポジション4。5位の88号車は12秒後方。
渡邉エンジニア「残り10ラップ、体大丈夫ですか?」の問いに・・・
高橋選手「ぜんぜん大丈夫!大丈夫!」
アラカン(アラウンド還暦)ドライバー恐るべし。
渡邉エンジニア「10秒後方5番手88号車来ます!!」と状況を伝える。
だが117周目88号車はピットイン、ここで満タン給油を行なっても、残り周回約40周以上は走れないのでもう一回のピットインは余儀なくされるだろう。
 “順調に行けば”あと一回のピットインしか予定していない我々2号車EVA紫電の脅威では無くなった。

126周目“最後”のピットイン。高橋選手から最終スティントの加藤選手へ・・・。最終スティントも35周のロングスティントであるが、午後5時を回り気温も路温も下がって来ている。全チーム同じ条件ではあるが、加藤選手はハイペースで締めくくってくれるだろう。ピットアウト後の順位は5位。トップは66号車。続いて3号車、21号車、88号車そして2号車EVA紫電だ。
前4台は全てあと1回のピットインを残している。トップとは既に1周以上の差がついているので、逆転は難しいが、2位3号車とは90秒差、ここからの加藤選手の追い上げがあればピットストップも含め逆転圏内である。
ところがそんなチームの期待を、奈落の底に突き落とす言葉が無線に飛び込んできた。加藤選手「エンジンおかしい!パワーが無い!!」どうもエンジンブロー等、破壊では無くパワーが落ちた様だ。スロー走行のままピットに帰ってくる。そのまま頭からピットへ・・・・。エンジンカウルが外される。
エンジン担当の戸田レーシングのエンジニアがデーターを読み取る。センサー等電気系ならばこうしたデーターからの解析となる。メカニックはエンジンルームを覗き込み、何かパーツの破損等が無いか目視点検を行う。僅か数十秒、数分で表彰台圏内、入賞圏内から落ちてゆく。程なく原因が見つかった。エキゾーストパイプが割れてしまっている。これではパワーダウンしてしまう。急遽修理に取りかかる。走行直後で最も熱のある部分の取り外しであるが、メカニックはものともせず手を入れる。約30分掛かって修理完了。

再び加藤選手によりコースイン。レースの勝負権は完全に失ったが、完走というリザルトも残さなければならない。 またパワーダウンの原因がこれで間違いなかったか?他にも複合的なトラブルは無いか?それらの確認はやはりサーキットを走らせないと確認はできない。次回のレースにしろ、テストにしろ、マシンのメインテナンス後の試走としてここで確認しておくことは重要である。
レースは144周で完走にとどまり、こうした結果は残念だが、ドライバー、メカともノーミスで、レース戦略的にも大成功と言え、今後の貴重なデーター、大いな自信につなげる事ができたと思う。


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